犬の前に、猫の話。
私が、いわゆるペットとして最初に一緒に過ごしたのは、実は猫。
父が何処かからもらってきたオス猫で、16歳で亡くなった。その最期のエピソードです。
晩年はたくさん病気をして、病院通い。最期までの数日は寝たきり状態でした。心の奥底では、そろそろお別れだ、とわかっていたのですが、どうしても認めるのが嫌。きっと後少しは大丈夫、と自分に言い聞かせていました。
そんなある日の夜、もう動けないと思っていた猫がヨロヨロと立ち上がり、歩き出しました。びっくりして見ていると、ずっと過ごしていた部屋を出、階段を上がり始めました。どこにそんな力があったのか。私を従えて、確固たる意志を感じる足取りで、一段一段登る彼。そのまま私の部屋の中央に着くと、これでよし、とばかりにドカッと横になりました。
今日はここで過ごしたいんだ、と嬉しくなって。私も毛布をベッドから引き摺り下ろし、その夜は猫の隣で寝ました。生きているか心配で、打とうとしては何度も目を覚まし、猫を見ました。その度、慈愛のこもった目で見つめ返してくれました。
次の日、私が買い物に出掛けている間、彼は息を引き取りました。
亡骸は軽く、硬く、冷たくて。死ぬことを冷たくなる、というのは、こういうことなのだと初めて体感しました。
そしてああもう、彼はここにはいない、と思いました。
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